Galápagos
2021年2月。SALTシリーズTairaba Stickの発売とともにデビューしたフィッシングブランドGalápagos(ガラパゴス)。その後、BASSシリーズのGrace240Fが即完売のヒット商品となりました。発売開始から1年を経て、改めてブランドや製品への想い、開発の裏側エピソードを探りました。
フィッシングリテーラーによるブランド、Galápagos
ーまず、Galápagosがどのような経緯ではじまったのか教えてください。
田中:社内ミーティングを行う中で「自分達が欲しいと思う釣具を開発してみたい」という話が社長の耳に入り「それなら、フィッシングリテーラーならではのブランドを立ち上げよう」と、このプロジェクトがスタートしました。
いわゆる小売店のプライベートブランドというものではなく、せっかくやるならイイ物を作りたい。釣具の開発をしたいという気持ちはあるものの、くすぶっていたスタッフが何名かいたので、すぐに試作品の開発に着手しました。
ーどなたがアイデアを温めていたんですか?
田中:それは鹿内ですね(笑)なのでバスのルアーをまずは作ってみようとなりました。それを見ていたら、あまりに楽しそうなので私もソルトで開発をはじめ、Galápagos BASSとSALT2つのブランドが立ち上がりました。
ーGalápagosはどんなブランドですか?
田中:いままでフィッシングリテーラー(釣具の小売店)のスタッフとしてメーカーの垣根を超えて様々な釣具に触れてきました。店舗では釣り人のリアルな声を聞き、自ら釣りに本気で取り組んできました。
日本の釣り文化、釣具は独自の進化を遂げており、世界に誇れる素晴らしいものが沢山あります。ですが、ひとりの釣り人として釣具にはまだまだ可能性があるなと感じていました。
フィッシングリテーラーとしていままで培ってきた経験を生かし、より新しく・より良い釣具を作るフィッシングブランドとしてGalápagosを育て、日本の釣り文化をより深く進化させることが私たちの使命だと思っています。
ーブランド名はどのように決まったんですか?
田中:はじめは「あなた達がやるんだから、自分達で決めなさい」と社長命令がありました。それで色々みんなで考えて、最終的に“バズ・ジャパン”というブランドにしようと決めたんですね。
チーム内で一度は決まっていたんですけど、社長のOKが出ず(笑)そこから紆余曲折あって1年半くらいかかって最終的には社長からの案で“Galápagos”に決まりました。
鹿内:今になっておもうと、“バズ・ジャパン”にならなくてよかったなと思います(笑)
丸3年。数々のプロトを投げ続けて完成したGrace240F
ーBASSシリーズで最初に開発をはじめたのはどんな物だったんでしょう?
鹿内:最初に作ったのはゆっくり巻けるミノーです。それまで、バス用のゆっくり巻けるミノーが市場にありませんでした。こんなモノがあったらいいのになというイメージはあって、自分のメインフィールドが琵琶湖なので、琵琶湖に特化し自分が使いたいと思えるルアーをまずは開発したいと思い形にしました。
ー琵琶湖に存在するパターンに対応できるルアーを作ったということですか?
鹿内:琵琶湖のビッグベイトを使ったデッドスローパターンです。ビッグベイトだとどんな条件でも通用するわけではないので、いつでも、誰でも扱いやすいようにミノーで落とし込んでみました。
田中:それ釣れたん?(笑)
服部:僕は何本か。57cmくらいまで何本か釣りました。
鹿内:ただ、見た目が納得いく仕上がりにならず、ここからOEM先を探していきました。条件の合う工場が見つからずに苦労しましたね。
田中:最初は100個くらい売れたらいいかな?というレベルの規模感でスタートしたので、ウッドを使って小ロットで作れるところで相談していましたが、プロジェクトが進んでいく中で「日本の釣り文化を世界に広める、世界で通用するブランドを目指す」という大きな話になっていって(笑)
鹿内:その後、出会った工場(Grace240F※以下『グレイス』の製造元)のクオリティが高く、技術力があるので、それならミノーではなく、元々作りたかった3連結の複雑なルアーに挑戦したいなとデザインし直しました。
田中:当時のメモを見ると、羽根物ルアーにしようかという話もでていましたね。しかし、これは本当に自分達が使いたいと思えるものなのか?と自問自答をしてボツになったアイデアもいくつかありました。
鹿内:”作りやすい”という理由だけでルアーを作ると「自分達が欲しいと思う釣具を開発してみたい」というところからブレてしまっていたので、初心に戻って自分が本当に作りたいもの、カッコいいルアーで今までに無いものを…と再スタートしたのがグレイスです。
ー製品開発のこだわりはありますか?特に鹿内さんのこだわりが強いと聞いていますが。
鹿内:市場にないものを作りたいというところですね。それをしようとすると見た目が奇抜になってしまうんですけど、見た目のカッコよさはキープしたいと思っています。タックルボックスに入っているのを見て自分でカッコいいと思えるルアーを作りたいですね。
特徴を出そうとすると、余計なパーツが増えていくんですがそれを削ぎ落としてシンプルな形で形でカッコよく、動きからくる機能美を追求したいと思っています。動きと見た目が一体化するというのが拘りの1つです。
ーそれは鹿内さんが実際にお店でいろいろなルアーを見てきたから思うところなんでしょうか?
鹿内:そうですね、やっぱり釣具屋にいるのでいろんなルアーを手にとって、実際に買って試して。そうすると、巻いてきて食わせるキッカケの無いルアーとかが多いと感じていました。ワンアクション横に飛ばせるルアーが欲しいなと。
それが2連結が実現できなくて、3連結だとできることが分かり、誕生したのがグレイスですね。
ー開発にはかなり年数を要したようですが、どれくらいかかったんですか?
鹿内:丸3年くらいですかね。
田中:当初、2ヶ月スパンで新製品を出していく計画でしたが。全然無理でしたね。はじめは売り上げと人件費など計算して「早よ作れよ」と思っていましたが、途中から諦めました(笑)
ーグレイスの開発で苦労したところはありましたか?
鹿内:初めてのルアー作りですから、苦労は沢山ありました。グレイスはこんなスケッチからはじまったんですが、途中でアカメ釣りに行った時に「このとんでもない泳ぎはなんなんだろう?」と思って、ちょっとアカメのフォルムに近づけてみました。
しかし、動きが思ったようにでなかったんです。そこで試行錯誤していきました。サイドが扁平になったり、その後に魚っぽいフォルムに変化していったりとしたのですが、ここでも顎の部分がいらないなとか。この顎の部分で水を受けられないかな?と思ったんですが思うようにいかず。
いいところまでいったのに振り出しにもどって。みたいなことは多々ありました。
ジョイントの位置は最後まで悩んでいました。何パターンも試して、最終的には元々書いていたスケッチに近づいていきましたね。
田中:アクションを出すのが難しかったよな。こうしたらこう動くという知識がないから。やりながら勉強していくような。
鹿内:S字なんて特にそうですね。リップがついていればまだ動きが予想できるんですけど、1番難しいところに手を出してしまったなと…
ーグレイスはかなりの反響があったようですが?
鹿内:最初は何年もかけてワンロットを回す予定でいたんですが、想像以上の反響があって嬉しいです。
田中:売れると思わなかったから、予約をとってどれくらい反響があるのかとみてみたら、想像以上で。最初は限定50個くらいしか売れないんじゃないかって話してましたからね(笑)
鹿内:結果、その何十倍もの数がすぐに完売となりました。多くの釣人の手に届いて嬉しいです。
ー想像以上の反響があって、いまどんな気持ちですか?
鹿内:時間をかけて、納得のいくものをしっかりと作った甲斐はあったなと。途中で妥協していたら全然売れなかったかもしれません。今後もこだわって開発をしていきたいと思います。
ブランドとして最初の製品はSALTシリーズから
ー最初に発売になったタイラバステイックについて教えてください
田中:本当はバスの製品(グレイス)を1発目に出す予定だったのですが、初めてのルアー作りは非常に難しく、なかなか思うようにいかず…。いきなりビッグベイトの3連結という難しいジャンルにチャレンジしてしまった為、完成の目処が立ちませんでした。(笑)
流石にそれは待てないので先にソルトの製品をリリースすることになりました。自分の好きなタイラバのロッドを開発し、タイラバスティックが生まれることになりました。
ーはじめてロッドを開発してみていかがでしたか?
田中:はじめてにしてはいきなり良いものができたと自負しています。
タイラバスティックのターゲットはこれからタイラバをはじめたいというエントリーユーザー向け。価格を抑えながらも、見た目は安っぽくならないように作っていきました。それが評価され実際にお店でもよく売れて、すぐに完売となり手応えがありました。
ただ、実際に遊漁船に乗って色々な話を聞いてみると、もっと所有欲を満たしてくれる良いものを作って欲しいという意見も出てきて。これは実際に製品開発を行って現場に出てみたからこそ気づけたことで、色々と発見もありました。
それは次のステップとして開発に取り組んでいます。
ーその次にShoreMetalシリーズがリリースとなりますが、そのタイミングで新たなメンバーが加わったそうですが、どんな流れだったのでしょう?
田中:開発を進めるにあたって、みんな違う仕事がメインなんです。ある意味片手間で開発を進めるような。それなので開発が前に進まずにいました。そんな中「世界で通用するブランドにする」という話が出てきて、これは片手間ではできないなと。
それで開発課を作り、瀧本が入りました。
その後、ショアからのジギングが流行っているので、お客様が求めているショアメタルのシリーズを展開することにしました。このシリーズは瀧本が開発を担当しています。
ーShoreMetalシリーズの手応えはいかがですか?
田中:正直、競合他社が手強いです。メディアでの露出が多いメーカーで価格も安くてクオリティが高いものが既に市場にあるというのもありました。なかなか認知されない状況で苦戦していましたが、グレイスの発売後にブランドの認知度が上がってきていて、徐々に上向いているので、今後はよりGalápagosらしい製品を開発して盛り上げていきたいですね。
普段の仕事の合間を縫って現場に通う日々
ーワーム(Zegra Shad)の開発期間は?
服部:グレイスの開発と同時に「服部はワームやったら?」ということで、当時琵琶湖で流行っていたワームのスイミングの釣りで使えるワームが作りたいなと。普段の仕事をしながらテスト釣行を繰り返して、やっと釣れるような形になったかなと。
ギューっと集中して開発したら1年くらいかなというところなんですが、色々やりながらだと時間がかかってしまいましたね。
「もうええんちゃう?」と散々言われたんですが(笑)実際に使っていると回転してしまったり、ナチュラルに動かず気に入りませんでした。
魚からの答えが帰ってこないと、なにが正しいのか分からなくなるので苦労しました。やっと答えが返ってくるようになり、釣れて。最終的な形が見えてきました。
ー横向きスティックベイトなんですね?
服部:はじめは普通のストレートなスティックベイトだったんですが、泳がしてみると横を向いてしまう事が多かったんです。それで、「どうやったら綺麗に泳がせるかな?」と考えて頭の部分を切ってひねって接着してみたら、上手く泳いでくれたんです。それでサンプルを出してもらったのが今の形状ですね。
ー開発中いろいろなエピソードがあったそうですが、苦労したことはありますか?
服部:僕も琵琶湖には何度も入りましたね(笑)
鹿内:貴重なサンプルを真冬の琵琶湖で引っ掛けてしまって…数少ないサンプルなのでひっかける度に泳いで取りにいきました。何回も(笑)大津店にいたので、すぐにテストできたのはよかったですね。
ーどれくらいの頻度でテストに行っていたんですか?
鹿内:ほぼ毎日です。パテを盛って固まったら10分だけ動きを見に行ったり。休日はがっつりテストしていました。
ー他の仕事と並行して開発するのは大変そうですね。
服部:そうですね。普段の仕事の合間でテストを行っているので寝不足になり、現場に行って少し目をつむったら朝になっていたこともありました(笑)開発に強い気持ちがないとやれないと思いますね。
Galápagosを通じて、日本の釣り文化を世界へ
ー製品が世に出ましたが、どんなユーザーに使って欲しいですか?
田中:タイラバに行きたいけどどんな竿を使ったらいいですか?という初心者の方に使ってほしいです。中上級者も気になってくれたら、次のハイエンドを手にとってもらえたらいいなと思っています。タイラバをする全員ですね(笑)
服部:僕のワームはバスのおかっぱりの玄人に使っていただけるような物になったらいいなと。
鹿内:グレイスは、見た目はありきたりなルアーなんですけど、いろんなルアーを使ってきた人に使ってもらって、違いを感じて欲しいなと思っています。投げてみると想像以上の動きをするので、いろんなビッグベイトを使ってきた人には一度投げてみて欲しいですね。
ーソルトは入門〜中上級向けと幅広いですが、バスは玄人向けのマニアックな方向性ということですね?
田中:そうですね。それは元々狙っていたところです。
ー今後、Galápagosをどうしていきたいですか?
田中:タイラバロッドが完成したので、タイラバ自体を作りたいですね。それが直近の大きな目標です。あとはタイラバに限らず、海のオフショアのジギングやアジング、サワラやマグロなど。最終的には全ジャンルの竿、ルアーを網羅して製品開発をしていきたいなと思っています。
鹿内:バスはこだわりすぎて時間がかかっているので、次に出すアイテムも時間かかると思うんですが…時間をかけただけ期待に答えられるようなアイテムを作っていきたいですね。
使うのは難しく無いけど、しっかり釣れるルアーですね。バスの方でも各ジャンルを網羅していきたいと思います。
ー世界で通用するブランドにという部分はどうですか?
田中:まずは日本。日本向けに作って、それを見つけた世界中の人が「欲しい!」となるのがいいなと。「日本の釣り文化を世界に広める」というコンセプトもまさにそれで、日本という島国だからこそ生まれた釣り方だったり、道具だったり、それを世界中の人に届けていきたいと思っています。
ー社内でGalápagosのプロジェクトに参加したいという人がいたら開発に関われるんでしょうか?
田中:やりたいという人がいたら歓迎です。開発に関わってもらいたいとは思っています。企画を出してもらってチームで精査して通れば実現するかもしれませんね。
ーありがとうございました。
写真:中田トモエ
インタビュー/文字起こし:北畠 蘭知亜